問題 7 次の文章を読んで、[41]から[45]の中に入る最もよいものを、1・2・3・4 から 一つ選びなさい。
「好き」という言葉の罠
「好き」という言葉は曖昧だ。意味が曖昧なわけではない。言葉に込められる感情の強さの度合いがはっき りしないのだ。ないよりはあったほうがいいという程度の「好き」もあるし、それを奪われたり失ったりしたら死ん でしまうかも知れないという強烈な感情や意志を伴う「好き」もある。私事で恐縮だが、わたしは小説を書くの が好きではない。じゃあ嫌いなのかというとそうでもない。おそらくそれがなくては生きていけないくらい重要で 大切なものだが、非常な集中を要する のでとても好きとは言えないのだ。(41)小説を書くことは好きという 言葉の枠外にある。
子どものころから文章を書くことは得意だったが、好きではなかった。もし自分が小説を書くことが好きだった らどうなっていただろう、と考えることがある。もし好きだったら、たぶん日常的な行為になっていただろう。つま り小説を書くことが自分にとって特別なことではなくなっていただろう。( 42)小説を書くことそのものに満足 を覚えるようになったかも知れない。執筆が日常的な行為と化すこと、書くことそのものに満足すること、いず れも予定調和(注 1)に向かう要因となる。わたしにとっては忌避すべきことだ。
「好き」という概念を(43)。だが好きという言葉は自家撞着(注 2)・満足の罠に陥りやすい。程度の差はあ っても、好きという感情には必ず脳の深部が関係している。理性一般を司る前頭前皮質ではなく、深部大脳辺 縁系や基底核が関わっている。「好き」は理性ではなくエモーショナル (注 3) な部分に依存する。だからたい ていの場合、本当に「好きなこと」「好きなモノ」「好きな人」に関して、わたしたちは他人に説明できない。なぜ 好きなの?どう好きなの?と聞かれても、うまく答えられないのだ。「好き」が脳の深部から湧いてくるもので、そ の説明を担当するのは理性なので、そこに本来的なギャップが(44)、逆に、他人にわかりやすく説明できるよ うな 「好き」は、案外どうでもいい場合が多い。
「なぜあの人が好きなの?」「お金持ちだから」というようなやりとりを想像すればわかりやすいが、説明可能 なわかりやすい「好き」は、何かを生み出すような力には(45)。
(注 1) 予定調和:ここでは、創造的でない状態
(注 2) 自家撞着:自己矛盾
(注 3) エモーショナルな:感情の
41.
Recent Comments